ボンかすLIVE

春日井ボンのボンかすLIVE

バヤニストの独り言

新曲「Märchenverbot」について

1月24日にはAメロの和声ができて、2月8日は最初の完成を宣言している。その後、重要な主題が2月18日にできた。それからはずっと編曲を繰り返していた。

 

今回の曲はクラシック音楽を聴いている期間にできた初めての曲だ。メロディーとか和声ではなく、一番の影響は「もっと自由でいいんだ」と言う精神だろう。僕がやっているのはポップスではないのに、知らない間にポップスのルールに縛られていた。それがクラシックを聴いていて、解放された気がする。変拍子も転調も当たり前。自分が心地よい音を鳴らそうということを大事にした。聴いていたのは19世紀から20世紀にかけてのロシア~ソ連の作曲家が多い。この時期のロシアの作曲家の作品はなんというか凄まじい。革命という激変が作曲家の精神に陰に陽に影響を与えたのであろう。

 

曲として大きな変化があったのは和声に経過音を加えていった辺り。和声と音楽は違うんだと思い知った。経過音が加わって和声がオンガクになった。一方で、最初からピアノ音色でずっと作曲していたが、途中からアコーディオン音色に切り替えた。これもクラシック音楽の影響で、楽器というのはその特性を活かしてこそ意義が深まると思ったからだ。アコーディオンのために~とか言う気はないし、僕はバヤン奏者の代表でもなんでもない。ただ、ピアノ音色ではなくアコーディオン音色でかっこいいと感じられる曲にしようと思ったのだ。いつも言うがV-Accordionアコーディオン音色だけがフィジカルさを感じる。この電子楽器で、身体を使って弾いている感覚があるのはアコーディオン音色だけ。たぶん蛇腹のせいだろう。そんな訳で曲が完成した。

 

曲が一応の完成をみてからも、タイトルが決まらなかった。タイトルとはテーマのことだ。この曲はなんのBGMだろう?マルコポーロ三部作のように、一枚のイメージ図があればよいのだが、まったく浮かばなかった。それが4月になって突然イメージが舞い降りた。「ハーメルンの笛吹き男」だ。

 

残る記録によるとこの事件が発生したのは1284年とされている。奇しくもマルコポーロが元で生活していた時代なのだ。それ自体にも不思議な縁を感じる。時代と場所が決まった。中世のドイツ。下調べが始まった。僕の興味の中で、ドイツはいままでかなり限定されていた。振り返っても、20代の一時期にドイツ映画を観まくった時期があったぐらい。ドイツ語についても詳しくないが、当然今回はテーマやイメージに敬意を表してドイツ語のタイトルにするから、まずはドイツ語について調べた。ドイツ語の特徴的な点として合成語がいくらでも作れるという特性があるのを知った。そう言えばドイツ語の単語はやたらと長いような印象がある。日本語と同じく、本来は無関係な単語を分かち書きせずにひとつの単語にまとめる合成語が出来る。これは唯一無二のタイトルをつけたい僕のような者にはもってこいじゃないか!

 

そこでタイトルには日本人にも世界中にも知られているドイツ語の単語を含む合成語にしようと思った。それがメルヘン(Märchen)。日本語としては揶揄的な印象になるけど、本来はおとぎ話とか童話の意味。それに禁制とか禁止令という意味のverbotをくっつけた。タイトルの意味を日本語に訳すと「おとぎ話禁止令」みたいな感じになる。verbotという単語はワーグナーの「恋愛禁制」(Das Liebesverbot)というタイトルから見つけたもの。

 

「恋愛禁止令」が余計に恋愛の意義を意識させるように、僕には、おとぎ話を禁止するという表現からむしろおとぎ話の存在意義を強調奨させる意図がある。

 

ハーメルン伝説に話を戻そう。この伝説の歴史的事実は諸説あるが、近年有力な説はドイツより東方の植民地に開拓民としてハーメルンの若者が召集されたことを表しているのではないか、とするものだ。いわゆるグリムほかの童話としてのハーメルン伝説とは異なる。植民地を開拓するために若年層の国境を越えた移動があったという事実は古代から20世紀に至るまで世界中どこでも、そう日本でもあったことだ。そこに人間的なドラマは個別にはあっただろうが世界史的には珍しくない。ならばしかし、そうした珍しくもない事象がここでだけ形を変えて、わざわざ「ネズミ駆除の報酬を貰えずに憤慨して子供たちを連れ去った」なんていう恐ろしげなストーリーに変えられたところにハーメルン伝説の特異さがあるし、よく考えたら科学的にありえなさそうな話にすり替わっているところ全体がおとぎ話とも言える。おとぎ話禁止令があったら、ハーメルン伝説も日本の桃太郎もこの世から消え、植民地への開拓団とか、鬼退治なら共同体からはみ出た民を征伐したり支配した、みたいな身も蓋もない話になってしまうだろう。そんな世界に住みたいかというと僕はNOだ。真実がどうかの究明とは別に、歴史上のおとぎ話の世界観がとても好きだ。禁止されるからこそ意義が生まれる。そんな逆説的な意味合いを込めて、このタイトルにしました。

 

いま現在、「Märchenverbot」というタイトルの楽曲はGoogle上でもYouTube上でも僕の曲のみだ。この世界で!ただし曲名としてでなければ検索でき、どうやらドイツ語圏の親が子供の教育について相談している文章の中などに見かけることが出来る。つまりドイツ語の合成語の単語としては構文上おかしくはなく、楽曲のタイトルとしては他に存在しないことが確認できたのだ。それってとても気持ちがいい。この世に、新しいアートを生み出せた。そう思うと僕には生きる勇気が湧く。それはまるで僕にとってのおとぎ話みたいに、潤いを与えてくれる。