前曲「Märchenverbot」に続いて、テーマは「ハーメルンの笛吹き男」伝説です。前曲は童話としてのハーメルン伝説のストーリーをそのままなぞるつもりで構成したので変拍子や転調など曲調に変化があるが、今回はその舞台、13世紀のハーメルンの風景だけを描いた前奏曲のつもりで作曲を始めた。最初のフレーズが生まれた時、まだ自分がこのテーマから離れたくないのだと思った。中世ドイツのイメージだった。
曲は紆余曲折を経てワルツになった。サビはなかなか出なかったが、最初の主題を変化させたら自然と作れた。そうか、そういう作り方もあるのね。一番気に入っているのは2回目サビ後のトリオ部分。刻むリズムと音の響きだけでメロディアスではない分、プリミティブな躍動があると思っている。
そしてタイトル。今回も1か月かかったなー。「Hinkelkästchen」は僕が作った単語ではない。ドイツ語は合成語が作れるのだけど、今回はありもののタイトルである。日本語にすると「ヒンケルの箱」だがその意味するところは日本で言うところの「けんけんぱ」である。英語ではHopscotchなのだが、そのドイツ語版。道路にチョークでマスを書いてルールに則りぴょんぴょん飛ぶ例の遊びのことだ。ドイツ語では地方によってルールも様々だし、名前も多数ある。ハーメルンではどう呼ぶかは調べられなかったが、あとは響きとウムラウトを使う単語が良いという理由でこれを選んだ。
ハーメルン伝説の130人の消えた子供たち。おとぎ話のストーリーのようにネズミ退治の報酬をもらえなかった笛吹き男の腹いせなのか、それとも後世の歴史家が言うようにドイツの東方であるポーランドへの開拓移民として農家の長男以外の子供たちが人減らしで連れていかれたのか…、その事実がどうかより、僕にはまるで集団でけんけんぱしながら城壁に囲まれた町から出て行ったのではないかという比喩が浮かんだのだ。それは僕のおとぎ話です。
ただ最初にハーメルン伝説からけんけんぱを思いついたのは、この曲を弾いている時。V-Accordionの白と黒のボタン上で規則正しく指を動かしている様を自分で見ていて、「あーなんかけんけんぱみたいだなー、あれドイツ語ではどういうんだろう」と思ったのが始まりだった。例のごとくウィキペディアで調べて、世界中にこの遊びがあること、ローマ時代にはすでに似たような遊びがあったと思われることなどを知って、1284年のハーメルンにあったかは分からないが、比喩的なイメージとしてこのタイトルを使えるかなと思った。
検索するともちろん動画としてもテキストとしてももちろんあるのだが、意外にもそのものズバリのタイトル曲は見つからなかった。動画のほぼすべてが、孫がけんけんぱするのをおじいちゃんおばあちゃんが撮ってみたよ、という感じのプライベートな内容ばかり。そんなに動きもないしバズりもしない検索ワードだと思うから、僕がアップして何人かが聴いてくれただけで、Hinkelkästchenで検索した動画の2番目か3番目には僕の曲が表示されるようになった。
Hinkelkästchenはルールによっては別名Himmel und Hölle(天国と地獄)で知られるバリエーションがある。130人の児童が行った先は天国か地獄か。その身になれば、目指したのは天国であったと信じたい。おとぎ話であったとしても。
どこに行くのだろう?
どこまで行けるのだろう?
いつまでこうしているんだろう?
…と、子供になったつもりで根源的な問いを自問しながら作曲しました。よろしければぜひお聴きください!
春日井ボン - Hinkelkästchen
Bon Kasugai - Hinkelkästchen (original) V-Accordion FR-1xb Solo