いよいよ詩の話をしよう。僕は作詞にものめり込んだ。いろんなパターンを試した。最後には自分らしいとはどういうことかも分からなくなった。採用したのは「しっくりくるかどうか」というラインだけ。シンプルで叙事的な詩(詞ではなく)をよく書いた。あぁ、この詩(歌詞ではなく)っていう表現、よく使ったなぁ。若いな。こだわりって訳だ。
僕がバヤンでの音楽活動で2曲目に作詞作曲した歌は「誕生」という曲だ。これをライブで歌ったらそれなりに反応がよくて、その後の活動の活力になったのだ。…あれ、1曲目の歌は?…「箱」という曲でこれもそのライブで演奏したけど、これはもうかなり探さないと出てこない。でもビデオがあるんだよな。VHSだよ。そのうち中古デッキでも買って出力してファイルに変換しよう。見るの恐ろしいなぁ。それなりによい反応、じゃなかったらどうしよう。思い出は美化されるというから…。
誕生
砂の上のはだしの足跡はだれ?
───空への道に迷い天使は地に問うた
ここには何もない ……きっと自由な魂は隠されて
死(おわり)が用意された場所……
見たこともない 今まで
こんなにはかなくて美しいものたちを
悠々と散りるる花の精
見る間に乾いてく水たまりの太陽
透き通る甘い滴も ……唇にとれば儚く消える
そしてすべての すべての音楽よ!
残された時間はすぐにおわるの?
はかないもの達は何も答えない
自分たった一人が生きる証の
言葉を描いたとき羽が落ちた
飛べない天使は泣きじゃくり
黒ずみはじめた羽根を切り裂いたけど
花の精が降りかかり そっと天使に囁いた───
「詩(ことば)の中になら永遠があるはずよ」
もう戻れない空にも
唄えばその声が誰かに届くだろう
(聞こえてくるハミング)
天使は力強く歩き始めた
はだしの足跡が続く地上を……
完成した日付が当時のノートに書いてある。1995年4月16日だという。調べたが大きな出来事のなかった平和な日のようだ。今ならこうは書かないな、とか無粋なことは言わない。なんせ22年前なのだから。
あぁそうだ、吟遊詩人みたいなスタイルを追求してたんだ。歌というよりは詩だ。抒情詩ではなく叙事詩だ。飛べない天使とは自分のことなのだろうか。今も僕は地上を這いつくばってるが、社会に出ることの決意を詩的に表現したのか…いや分析はもういいや。つまりこの時に知られざるミュージシャンが誕生したんだ。自分が生きる証を歌で残そうとしたことだけはよく覚えている。本気だったのだ。